恋の後味はとびきり甘く
 私が挙げた、全国的にも有名な製菓専門学校の名前を聞いて、彼がうなずいた。

「はい。まだ一年目です」
「さっき大学を中退したって言ってましたけど……」
「あー。やりたいこともないまま大学に入って、ぶらぶらしてたんですけど、テレビでショコラティエの対決番組をやってたのをたまたま見たんですよね。で、すごいな~、かっこいいな~って……」

 かっこいいと思っただけで大学を辞めることができちゃうなんて、さすがに若いなぁ。な~んて、私も人のこと言えないか。チョコレートが好きってだけで会社を辞めちゃったんだから。

 思わず頬を緩めると、彼がため息をついた。

「やっぱ、そんな理由じゃダメですよね~。俺……親にも勘当されちゃったんですよ」

 さらりと言われて驚いてしまう。だって、勘当って。

「それは大変そうですね……」
「あ、でも、大丈夫です。生活費はバイトしてますけど、学費は祖父が味方してくれて出してくれてるんですよ」
「そうなんですね」

 私は内心ホッとした。ひとりでも味方がいてくれるなら、きっとがんばれるはず。

「好きなものを極めるっていう生き方に憧れたんです。目的を持ってまっすぐに生きる姿が、本当にかっこよくて……。俺もそんな生き方をしたいと思ったんです」
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