恋の後味はとびきり甘く
「そもそもは私が涼介くんに気を遣わせたせいだから……ごめんね」

 涼介くんが黙ってしまい、電話の向こうのかすかな物音が聞こえてくる。涼介くんが駅に向かって歩いているところなんだろう。

「あの、涼介くん……?」

 呼びかけると、『じゃあ』と緊張したような声が返ってきた。

『今から鈴音さんの家に行ってもいいですか?』
「家!?」

 びっくりして心臓が大きく跳ね、思わず手で胸を押さえた。

『あ、迎えに行くので一緒になにか食べに行けたらいいなって思ったんですけど、やっぱり急でしたよね。すみません』

 申し訳なさそうな声が聞こえてきて、こちらの方が申し訳ない気持ちになる。

「ううん、大丈夫。あの、実は今、作り置きのグラタンを食べようとしてたところで、もしよかったら、一緒に食べませんか? 焼くだけだから涼介くんの分もすぐに作れます」
『ホントですか!?』

 通話口から涼介くんの明るい声が聞こえてきた。

「はい。あの、味はあまり保証できませんけど……」
『鈴音さんの手作りなら、食べさせてもらえるだけで感激です!』
「そんな大袈裟な……」

 涼介くん、私を買いかぶりすぎだよ、と照れて身もだえしてしまう。

『いえ、本気です』
「あ、それじゃ、住所を教えますね」
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