キミに恋の残業を命ずる

2

「あんたって、グズだと思ってたら実はすごく怖い女だったのね。おみそれしたわ」


田中さんは露骨に憎々しげな口ぶりでわたしを見降ろすと、エレベーターに押し込んで一階を押した。


突然の異動で総務部を去ったわたし。

総務部の人にしてみれば営業部への転属は栄転と言ってよかった。
特に移動願いを出していた田中さんにとっては面白くないことこの上ないはずだ。


「こんない朝早く…めずらしいですね」

「ええ。あんたの秘密を暴いてやろうと思ってね」

「…」

「気になってたのよ。一体どんな手を使えばあんたみたいなグズが営業事務のしかも遊佐課長のサポート業務なんてできるのか、ってね。なるほどね、こういうことだったのね。怖い子」

「ち、ちがいます、わたしたちはそんな関係じゃ」

「じゃあどんな関係って言うのよ!?」


だん!とエレベーターの壁が叩かれた。ぐらりと揺れて、どうしようもない不安でわたしの心も揺れる。
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