キミに恋の残業を命ずる
絞り出すつもりで言った声は、意外なほど大きくて。
狭いエレベーター内に響き渡った。

「…あなたはそうやって人を非難することしか自分を保てないんですか?可哀相な人。ちっぽけな人。あなたみたいな人は、絶対に幸せになんかなれない。今の状況は、全部自分から招いたことだって、早く気づいたらどうですか!?」



ぱん!


頬が熱くなった。

ぶたれた―――?



ぱん!!



気づけばぶち返していた。

手の平に感じた熱い痛みで気づく。
わたし、田中さんをぶっちゃった…?


わたしが、こんなことできるなんて…。


田中さんも信じられないという表情をしていたけれど、我に返ってヒステリックにわめいた。


「よくもやったわね…!!ずいぶん生意気になったもんね。けど!あんた、本当にあの遊佐課長に必要とされていると思ってるの?」

「は…?」

「あんたみたいな平凡な女を、どうして課長が必要とするわけ?はいはいはいってなんでも言うこと聞くから都合がいいだけに決まってるじゃない」


一矢報いた、と確信したのだろう。田中さんはさらにその傷を抉りにかかった。


「なによその顔。ふふ、あんたまさか勘違いしてたんじゃないの?『課長はわたしのこと好きなんだ』って。あははは、イタい子!』
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