キミに恋の残業を命ずる

「はぁ…」


今日は課長には「どうしてもオフィスでやらないといけない仕事があって」と嘘を言った。
渋ってなかなか許してもらえなかったけど、どうにか部屋に行くのは免じてもらった。


今日はだらだら残業になりそうだ。
一服がてら、コーヒーでも飲もうかな。


そう思って、自販機コーナーに行った。


「三森さん」


すると、同じ営業部の男性が話しかけてきた。

たしかひとつ年上の方で富田さんと言った。
明るい性格の人で亜依子さんも期待している人だ。
やさしくて親しみやすくて、異動して間もない頃、いろいろ助けてくれた。


「三森さん、なんか今日はうわのそらだね。疲れ溜まってる?」

「え、あ、そうですか」


しまった気づかれてたか…。
いけないいけない。公私は分けないとね…。


「異動して間もないのに一生懸命がんばってるみたいだから、無理しないでね」

「はい…ありがとうございます」


ぐぅ


となったのはお腹の音。

やだ、わたし…かな。


「ご、ごめん。ちょっと腹減ってて」


けど、照れ笑いを浮かべたのは富田さんだった。
わたしもつられて笑う。
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