キミに恋の残業を命ずる
空を見れば、ちいさな白い欠片がふわりと落ちてきた。
手の平に落ちて、それは一瞬で溶け消える。


やっぱり、都会の雪はあっという間になくなってしまうんだな。


ちらほらと、舞うように降る雪は、まるで終わりを告げる寂しい紙吹雪のように見えた。


…おセンチだなぁ。
我ながらスバラシイ感性だ。


こんなわびしくじゃなく、もっともっと一杯降ればいいのに。

降って降って、このコンクリートだらけの灰色の街を真っ白染め変えてしまって、そして、全部…なかったことにしてくれればいいのに。


そうすれば、あとはしんと静まりかえる静寂が癒してくれるのに。



故郷の風景が恋しかった。

キンと産毛の先まで凍るような寒さを感じながら、あの真っ白な風景の中を無心で歩きたかった。



帰ろうか。

冬場に帰るのは飛行機も高いし天候のせいでダイヤが遅れたりするのでやめていた。

けれど…おばあちゃんが作ってくれた甘いお汁粉が無性に恋しかった。
寒い外から帰った後に食べると最高に美味しい、わたしのお家の味が…。


帰りたい。

帰ってそして、そのままずっといてしまいたい…。



そんなことを思いながら階段を降りようとした時だった。


わたしは立ち尽くした。


今一番会いたくない人物が、階段の下に立っていたから。
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