キミに恋の残業を命ずる
亜海と結婚して一ヶ月が経った。


俺たちはあの最上階の部屋を出て亜海の賃貸から数十メートルしか離れていない部屋に新居を移した。


あの最上階に比べると数段狭い部屋だけれど、ふたりきりで小ぢんまりとした部屋で過ごすのも充分満ち足りたものを感じられて満足している。





現在、俺は新子会社の設立準備で毎日超多忙の最中にいる。

昨日も休日返上で出社して、帰ったのは十時を過ぎていた。



準備はいざ取り掛かってみると想像を絶する大変さだった。けれども、一から俺好みの経営方針、メンバー、業務体系などを整える作業は、プログラム構築なんかよりもリアルで予測がつかない分面白く、残業三昧も気にならないほど毎日が駆け足で過ぎていく。


亜海も、友樹のポストを埋めるように営業課長についた亜依子の元で仕事するのがえらい楽しいから、と営業事務を続けている。

亜依子とは公私ともにつながりが太くなって、今では秘書のような存在でいるらしい。

それはそれでけっこうなことだけど…あまりに「亜依子さん、亜依子さん」と言うものだから、時折「俺と亜依子どっちが大事なんだ」と問い質したくなる…けど悔しいので控えるようにしている。



かといってせっかくの新婚生活を台無しにするのはよろしくない。

だから、せめて休日くらいはふたりきりの生活を満喫しようと約束している。





そういうわけで、日曜日の今日は、買物に行くことにしていた。


結婚式、ハネムーンとバタバタしたため、実は部屋には家具をまだ揃えられていない。前の部屋で使っていたものはそのまま社員たちの休憩室となるあの最上階に置いてきたからだ。(ちなみに、俺があの部屋にすんでいた、というのはみんな知らない)



今日のターゲットは最近できたばかりのショッピングモール。ここに県内初上陸になる家具店が入っていて、オープンセールをしているとのことだった。











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