レンタル夫婦。
12章:私に出来ること
***
――残り、5日

湊は奇跡的回復を見せて、夜には殆ど微熱まで熱が下がっていた。
だから私は安心して今日は会社に来ている。
湊はもう一日様子を見るらしくて、ちょっと安心した。

昨日の湊との会話がずっと頭に残っていた。

(ゲームを作りたい、かぁ……)

正直その為にどんなことをすれば良いのか全く検討もつかない。
休憩中何となくSNSを見ていたら、一人のフォロワーさんの発言が気になった。
あまり会ったことはないけれど、確かその人はそういう方面の仕事をしていたはず。
そう思って連絡をしてみた。
……ら、会って話そうと返事が来た。
それに了承の旨を送り、早速今日会うことになった。



**
「やっほー。遅くなってごめんねー」

仕事が終わり、駅で彼女と落ち合った。
名前はちろるさん。本名は知らない。
黒髪に眼鏡でちょっとだけ不思議ちゃん。

「とりあえず居酒屋でも行きますか」
「あ、……うん。でも、あんまり遅くはなれないんだ」
「んー大丈夫、1時間ぐらいで切り上げよう。私も締め切り近いので」

そんな会話をしながら近くにあったチェーンの居酒屋に入った。
適当におつまみと飲みものを頼んで、それが来たところで乾杯をする。

「それでそれで? 話ってーのは?」

生中を煽りながらちろるさんが問う。
見た目とのギャップに驚きながらも私は湊のことについて話した。

「――そういうわけで、何か力になれないかなって」
「ふむふむふーん……そっかぁ、あれだね、ジャンルとかにもよるけど、同人ゲーじゃあかんの?」
「どうじんげー?」
「あ、みひろんはそういうの詳しくないんだっけ」

知らない単語が飛び出て首を傾げる。
と、ちろるさんはんーと唸った後に声を出した。

「簡単に言うならアマチュアみたいな感じ? 例えば本とかを、きちんと出版社を通すんでなくて、自費出版とかそういうの、……こう、正式じゃないけど、世の中に出す感じ」

ちろるさんは大分大雑把な説明をする。
分かったような分からないような……微妙な感じだったけれど、頷いた。

「それってつまり、お金さえあれば誰でも売ったり出来るってこと?」
「うーん……微妙に違うけど、大体そんな感じかな?」
「そうなんだ……そんなのもあるんだね」
「まぁそのぐらい知ってると思うけどねー。もし作ったゲームとかあるなら私の方で知り合いに色々頼めるけど」
「そうなの?」
「うん。作ったものの内容とかレベルとか色々そういうのにも寄ってくるけどね」
「ありがと、帰ったら聞いてみるよ」
「ん、また連絡お待ちします」

そんな感じの会話をして、お礼を言ってちろるさんと別れた。
何だか有益な情報を得た感覚に、心が躍る。
早く湊に教えてあげたくて、急いでマンションまで帰宅した。


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