私のエース
 俺は叔父さんに頼まれて女装などもしてきた。


最近やっと160センチを越えた。
これは男子中学生の平均身長らしい。
男としては背が低く、髭も濃くない俺。
だからルージュとウィッグだけでそれなりに見えるらしい。

そんなこともあって、叔父さんは面白がって俺で遊ぶ。


女生徒の化粧だって校則では禁止している。
なのに男の俺が……
もし学校にバレたら……
そう考えただけでも怖い。
怖過ぎる!


退学だけで済まないかも知れない。
時代劇ではないけれど、市中引き回しの刑などもありえる。
つまり、全校生徒の前で俺の女装を見せ物にする。


ま、そんなことは無いとは思うけどね。




 でも叔父さんは仕事だけは容赦しなかった。
俺の女装は、叔父さんの恋人役を演じて現場に密着するためだった。


いくら叔父さんの頼みでも、俺だってイヤだよ。
でもそれらはみんな証拠写真や資料を得るのに必要だったんだ。
だから仕方無く引き受けたんだ。


俺は叔父さんから、探偵としてのイロハを叩き込まれたのだった。


『サッカーなんか辞めてずっと手伝ってくれ』
叔父さんは仕事が急がしくなるとことある毎に言っていた。


でも俺からサッカーを取り上げたら、何も残らない。
みずほ以外何も……


そうなんだ。
俺にとってみずほは、何物にも代えられない宝物だったんだ……




 担任の先生と生徒の母親との浮気現場に出くわした時はド肝を抜かれた。
女装がバレたらただじゃ済まない。
そう思った。


だから急遽の策として大胆に女を演じた。


『覚りが開けたのか?』

そんな俺を見て、叔父さんが言った。


(そんなアホな……)
思わず大笑いをしたくなった。
でも歯を食いしばってまでも防いだ。


教室で何時もはしゃいでいる俺の声に担任が気が付くかも知れないと考えたからだった。


あの時はそれで切り抜けるしかなかったのだ。
もし担任に、其処に居るのが俺だとバレたら大変なことになると思ったからだった。


でもそれは取り越し苦労だったようだ。
担任は何事もないような素振りで、個室に消えていった。




 女性はグレーのスーツを着ていた。
何処にでもいて周りと同化する、所謂カメレオン色だ。


俺の同級生の母親には見えない位若かった。
俺はついつい、お袋と比べてしまっていた。


担任は紺の上下。
目立たない服装は後ろめたいからなのか?
それでも、何時ものジャージよりは遥かに格好いい。



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