私のエース
 そうだった。
俺は自称だけど、サッカー部のエースだった。

俺は走りに関しては誰にも負けたことがなかったのだ。




 ポカーンとしていた。
何が何だか解らなかった。

でも俺は本当は知っていた。
みずほに恋をしたことを。


全身が硬直した時。
もう駄目かと思った。
でも必死に走ってくれたみずほのために頑張りたいと思った。


だから俺は速く走ることが出来たんだ。
全てみずほがいてくれたからだった。


俺はみずほに素直な気持ちを伝えたいと思った。

だから……
俺は校庭から少し離れた木の影にみずほを誘った。


みずほはイヤがっていた。

でも俺は、他のことなど目に入らなかったのだ。




 「岩城みずほ……さん実は俺……」
そう言ったままで俺はフリーズした。
可愛いセクシーな唇が俺の目の前にあったから……

俺は興奮した。


――ドキッ!


――ドキドキッ!!


――ドキドキドキッ!!!!


(あーああ!! 一体何なんだ!?)

俺は堪らず、みずほにキスをしていた。




 ――バシッ!!
俺の耳元でビンタが炸裂した。


「何よいきなり!!」
みずほは泣いていた。


(えっ!?)

久しぶりにみずほの涙を見て俺は戸惑った。


そして俺はみずほを抱き締めた。


俺の胸を叩きみずほが抵抗をする。
俺は構わずそのまま抱き締め続けた。

何故だか解らない。
ただ抱き締めていたかった。
みずほにとって迷惑なのは百も承知で。


 みずほの腕から力が抜ける。
それを見計らって、俺はもう一度キスをした。

やっと気付いた恋心を唇にのせて。


「何なのよ一体!?」
みずほが毒づく。
でも俺はその言葉を唇で消した。


自分でも思いもよらない程の激しい感情を、みずほの唇で感じたかった。


「好きになったんだ。それで充分だ」
勿論独りよがりだった。


どんどん愛しさが噴き出してくる。
俺は戸惑いながらも、みずほを抱き締め続けていた。




 「あんたなんか、あんたなんか大っ嫌い!」

みずほは昔、俺を睨んだ時の目をしていた。


そして語られた真意。


俺はまさかお祖母ちゃんの届けてくれたオムツが、みずほを傷付けたなんて思ってもいなかった。

「私の理想はあの格好いい保育士のお兄さん。あんたなんかとは比べ物にならないわ」

又みずほが毒づく。


「そうか。その理想のお兄さんにお漏らしを見られたから機嫌が悪かったんだ」



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