私のエース
 ――バシッ!
もう一度みずほのビンタが炸裂した。


「それでも、好きだ」
俺はもう一度みずほを抱き締めた。

みずほは俺より少しだけ背が低い。


(良かった! 身長だけはまだ俺の方が勝っている!)

俺はそれだけで満足していた。

俺はみずほの胸の膨らみを抱き締めながら感じていた。


俺は中腰になってみずほの胸の辺りに頬を近づけた。


「さっきリレーでバトンタッチの時、この胸が俺の目に飛び込んで来た。だからあんなに速く走れたんだ」

俺は興奮して、自分が何を言っているのかも解らなかった。

そしてただただみずほを抱き締めていたかった。


「バカがあんたは」

みずほはそう言いながら、家族のいる地域席に戻っていった。




 俺は積極的だった。
引っ込み思案で人見知りだった俺が、一人の女の子に夢中になった。


そしてその日の内にキスまで奪った。
俺にとっては革命的行為だった。


でも当のみずほは……
相変わらず冷たかった。


――バシッ!
その度見舞われるビンタ。


それでも怯まない。

それでも告白し続ける。


俺相変わらず意地っ張りだった。




 で、俺達が何で付き合う事になったかと言うと……

実のところ俺にも良く解らない。


俺の格好いいところを彼女が見たからだ。

――と思っていた。


サッカー部自称エースの俺は、試合でとにかく目立とうと張り切っていた。


サッカー部は部員が多く、紅白戦を良くしていた。
俺は小さい体と小回りの利く運動能力を生かしてレギュラー陣を翻弄させていた。


でもみずほは最初見向きもしかなった。

だから俺。
本当に未だに解らない。
どうしてみずほが付き合うことにしてくれたのが。




 でも高校に入って暫くして、ひょんな所から話が入ってきた。

みずほの憧れていた格好いい保育士がニューハーフに転身したらしいと。


彼は性同一性症候群だったのだ。


だから仕事に保母を選んだのだ。
でも保父としてしか扱ってもらえなかった。

彼は彼なりに悩み苦しみ抜いたのだった。


俺はその時悟った。
もしみずほが女装探偵アルバイトを知ったら、たたでは済まないと思った。

だから俺は、絶対に言わないでおこうと誓った。




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