私のエース
 気が付くと、お祖母ちゃんが俺の手を握り締めていた。


俺の恋人として、みずほを初めて紹介したのはお祖母ちゃんだった。
お祖母ちゃんは、俺が好きなのは小さい時から何時も一緒にいた千穂だと思っていたいたようだ。


でもみずほの優しさを目の当たりにして、安心したように俺に言った。『これで、思い残す事はなくなったわ』と――。

でも俺は、もっともっと長生きしてほしいと思っていた。




 「みずほちゃん綺麗ね」

アルバムを見てお祖母ちゃんが言った。


小さなみずほはお花畑の中で微笑んでいた。
大きなみずほは俺の隣で微笑んでいた。
その屈託のない笑顔はもう見られない。
急に胸が締め付けられる。
俺は悲しみの中にいた。


「あっ!」
突然お祖母ちゃんが変な声を出した。


「この子よ。トイレに居た子は」

俺はその言葉が、みずほのイトコの女の子に向けられたんだ思った。


「あっトイレのことはなし、傷付くと思うから」
俺はそっとお祖母ちゃんに耳打ちをした。


「そうか、やっぱり気付いていたのね」

お祖母ちゃんはアルバムをめくって、子供の時の写真ページにした。


「あんなに追い掛けていたんじゃ当たり前か?」
お祖母ちゃんがポツリと言った。
俺には何のことだか解らなかった。


「お祖母ちゃんさっきから何言ってるの?」

俺は思いっきって聞いてみた。
するとお祖母ちゃんは俺にアルバムにある写真を示した。


「この写真よ。私は覚えがある」

お祖母ちゃんはそう言いながら、俺に意外な話を始めた。




 イレに居た女の子とは、みずほのことだった。
俺がオムツを着けるきっかけになったデパートのトイレ事件。
女の人が頭から血を流していると言った俺。
でも実際は可愛い女の子だった……『この子は、あの時トイレに居た子よ』お祖母ちゃんはそう言った。


(そう言えば確か……お祖母ちゃんには見えていなかったんだっけな)

お祖母ちゃん言っていた。
其処に居たのは、可愛らしい女の子だったと。
俺はだんだん思い出していた。


だとしたら……
あの女の人は……
みずほが頭から血を流して死ぬ。
そのことを俺に見せていたのだろうか?


その暗示を俺は無視していたのだろうか?
もしそうだとしたら、みずほを死に追いやったのは自分かもしれない。


俺はみずほに許しをこうていた。
あまりにも未熟な霊感のために、みずほを追い詰めてしまったことを。




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