私のエース
 俺は垣間見た邪悪な何かがとても恐ろしくて仕方なくなった。


(それともみずほの魂が悪霊になったのだろうか?)

あんな恐ろしい目に合わされたのだ、それもあり得ると俺は思っていた。




 「キューピット様を遣ったことは解ってる」

だから俺はあえて出してみたんだ。
俺の言葉を聞いて、鏡の中で遊んでいた数人の女生徒が俯いた。


「殺ったのはお前達か!?」
女生徒の仕草を見て気付いた男子生徒が言い出した。


「なら俺はカンケーねえよな」

一人の生徒が立ち上がった。


「じゃあ俺は帰る。勝手に犯人探しでもしてな」
そう言いながら男子生徒が屋上のドアを開けた。


「そんじゃ俺達も関係ねえから帰るわ」


「それじゃ私達も」
みんなそう言って帰って行く。
後に残ったのは、俯いた女生徒と先生だけだった。
でもその中にあの二人は居なかった。


(町田百合子と福田千穂か? そう言えば二人は屋上にも来なかったな……)

俺はキューピット様を始めたのが町田百合子で、それに乗ったのが福田千穂だと思い始めていた。
でも、その目的が何なのかは判らなかった。




 みずほの死を悲しむわけでもなく……
みんな帰ってしまった屋上。
俺はただ自分の力不足を痛感した。


この中に真犯人は居ない。
コンパクトはそう言っていた。


(解ってる……そうか、俺は最初から知っていたんだ。でも……幼なじみを疑いたくなかった)

町田百合子はともかく福田千穂は、保育園時代から……
正確には産まれた時から一緒だと言っても過言ではなかったのだ。


母と千穂の両親は同じ職場だった。
俺達は良く手を繋いで、保育園に通っていた。
そうお祖母ちゃんの後に付いて……




 「先生。この中に犯人は居ないよ」
俺はズバリと言い切った。


「それじゃあ誰だ?」
先生が教え子を見た。


「えーと、お休みしているのが一人いて、此処に来なかったのが二人います」


「休みは確か……松尾有美だったな。でも松尾は違うぞ、親父さんが亡くなったからだ」
先生は強く言った。


俺には解った。
先生の浮気相手の、元恋人の子供となった有美。
愛した人と例え血は繋がっていなくても、その娘を守りたいのだと。


先生は其処までその人を愛しているんだと、俺は思っていた。



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