私のエース
 私はみずほの横で彼を見ていた。
みずほの彼ではない。
私は私だけのエースを見つけたんだ。
その人は、磐城君の隣でプレイしていた。


みずほには悪いけど、磐城君より他の誰より格好いい。
サッカーの技術だってプロの選手と変わりなかった。
それほど彼のサッカーセンスは抜群だったのだ。


私はこの時、彼の恋人になろうと思ったんだ。




 校則違反ギリギリな、ちょっと汚い手も使った。
ウチの学校やたらと煩くて、化粧も禁止しているんだ。
だから陰に隠れて、可愛らしい女性に変身してから彼にアピールしていたんだ。
みずほが磐城君の彼女だって知っていた彼は何の違和感もなく、私に話し掛けてくれたのだった。


私はこの時ぞばかりに可愛らしい女性を演じて彼の気を引いたのだ。


そんな努力の甲斐があって、彼は私の魅力に堕ちてくれた。
そして愛してくれた。


デートの度に甘い言葉を囁かれ、私は益々ヒートアップしていた。




 みずほは磐城君から贈られたコンパクトを自慢していた。
だから私は彼におねだりをして、併せ鏡をプレゼントして貰ったんだ。
私はその鏡でみずほの真似をした。


鏡から映し出される私のウィンクに彼の恋心が燃え上がることを期待して、更に愛してもらいたかったのだ。




 継母と二人で家の祭壇に遺影を飾っていたら、突然スマホが鳴った。


――岩城みずほが学校の屋上から飛び降り自殺したらしいよ――

そのメールにはそう書いてあった。


「えっ!?」

私は目を疑って、何度も何度も手で目をこすってみた。
それでも、やはり文面は変わらなかった。


「そんな馬鹿な、みずほが自殺するはずがない」


「えっ!? 自殺って……今確かにそう言って」


「そう……大事な友達が死んだらしいの。お継母さん。ちょっと学校へ行って来るね」

そう言うと、私は大急ぎで自転車に飛び乗った。


でも私が学校に着いた時にはみずほの遺体は御両親の手によって自宅へと運ばれた後だった。
瑞穂君の提案によって、その後でみずほの解剖が行われた事実を私は知らずにいた。


きっと辛い選択だったと今なら言えるけど……


みずほの葬儀には参加したけど何も出来ずに、そのまま家に帰った。
でも、磐城君のことが心配で翌日学校を訪ねてみることにしたのだった。


職員室に行ったら、屋上に居ると告げられた。
私はその足ですぐに向かった。




< 45 / 95 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop