私のエース
 「えっホント!? マジヤバい! 泣いちゃうよ」
有美はそう言って本当に泣き出した。


俺は……
有美が物凄く羨ましくなった。

だって……
悲しい時には勿論、嬉しい時にも泣けるだもん。




 泣いたり笑ったり、くるくる表情を変える有美。


(ヤベー。こいつマジ可愛い!)
俺は興奮していた。


(イケねー。みずほに対して不謹慎だった!)

俺はドキマギしていた。


まさか、まさか。
有美がこれほど魅力的だったとは。


プロリーグからお呼びがかかる程の技を持った校内一のエースが惚れ込むだけのことはある。
俺はマジで思っていた。


悪い噂を耳にしたこともある。
有美が女の魅力をフルに発揮してエースを射止めたなどと言う根も葉もないことだった。


(こんな可愛らしい仕草を見せ付けられたらエースも形無しかもな)

有美を見ながらそう思った。




 有美はもう一度手鏡を出した。
そして鏡越のウインクをくれた。


「みずほの気持ちが良く解る。実は……」
有美はそう言いながら勿体ぶる。


俺は次の言葉を待った。




 「みずほのコンパクトに憧れてね。彼氏に買って貰ったの」
有美はそう言いながら、手鏡を使ってもう一度ウインクした。


(おいおい……何もそんなに真似しなくても。ヤバい!! ヤバいよ……俺、本気になりそうだ!!)

でも有美にはサッカー部のエースが付いてる。

とても太刀打ち出来やしない。


(みずほ……お願いだー。俺を助けてくれ)

虫のいいことだとは解っている。

でも俺は必死にみずほに救いを求めた。


(もし……本気で惚れたら、俺に待っているのは地獄の日々だけなんだ)


有美はそんな俺を後目に、手鏡を大事そうに鞄にしまった。


誰もが憧れるサッカー部のエース。

その彼女の有美。

馴れ初めなんかは知らないけど、二人の噂は良く耳にしていた。

だから俺も堂々と、みずほと付き合っている事を打ち明けられたんだ。
監督以下、全てのサッカー部員に。

だから有美は俺達の、恋の女神だったのだ。


「みずほ、本当はスマホにしたかったらしいの。でも着信音が……とか言ってたの。チャペルの鐘の音なんだってね」
有美はそう言いながら又鏡に向かってウィンクした。



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