私のエース
 少し遅れて待ち合わせ場所に行くと、有美は手鏡を見ていた。
俺はその鏡に映る有美を無意識に見ていた。


(あ、ヤバ……つい癖が出た)

そう、みずほのウインク。


でもその時有美が、俺に向かって鏡越にウィンクをした。
思わず、ドキンとした。
そして俺は、戸惑いの中にいた。


ドキドキしていた。
みずほの可愛い仕草と重ねて、胸が張り裂けそうだった。
俺のプレゼントしたコンパクトのミラーに映る、みずほの飛びっきりの笑顔とウインク。
ハートがキュンと疼く。


みずほの居ない寂しさに押し潰されそうになった。


「ゴメン。みずほの真似しちゃった」

ペロリと舌を出す有美。


「知ってたのか?」

俺の質問に有美は頷いた。


「アツアツみずほのラブコール。知らない訳がないでしょう」

有美は笑っていた。




 「みずほに聞いたんだ、保育園時代のオムツ事件。みずほね、運命の人だって言ってた」


「運命の人!?」


「そうよ。瑞穂君地区対抗の運動会の時キスしたんだってね? みずほ本当はビビって来たんだって」


「えっ!?」
初耳だった。

まさか……まさか!?

みずほにそんな風に思われていたなんて……


「でも……気が付いたらビンタしていたって」


(うん……そんなこともあったな)

俺は、みずほに叩かれた方の頬を触っていた。


どうしても解らなかったことが……
今明るみになる。


(やはり俺は……本当にみずほに愛されていた。この恋は……独りよがりではなかったんだ)




 「みずほね。ビンタした後で、物凄く衝撃受けたんだって。そして気付いたんだって、ずっと意識していたことを」


「でも……その後も俺、ずっとビンタされ続けていたけど」


「恥ずかしがったみたい。みずほも女の子だからね」

有美がみずほの恋を語ってる。
俺は心地よいおとぎ話を聞いているかのように、うっとりとしていた。


「だからみずほ……」

有美は急に涙ぐんだ。


「だからみずほ、思いっきり愛そうって決めたんだって。きっかけは私と彼氏だったらしいけどね」


「そういやーみずほ言ってたな。有美に勇気を貰ったって」


「ほら彼氏ってエースじゃない。周りがうるさくて。でもストレートに言ってみたの『大好きだから付き合って下さい』って」


「でも彼氏も陰で言ってたよ『ずっと気になっていたって』さ」



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