私のエース
 私は父と継母の結婚式の当日、市役所に提出する婚姻届けに記入する現場を目撃した。
だから二人は結婚しているものだとばかり思い込んでいた。


『お母さん』

だから私は歳の近い姉のような継母を親しみを込めてそう呼んだのだ。


初めは戸惑っていた継母も、私を娘として受け入れ親身になって面倒をみてくれた。


そうさせたくて呼んだ訳ではない。
誰に頼まれたのでもなく、私自身の判断だ。


実の母が死んですぐ部下に手を出した父は、無理矢理結婚を承諾させた。
それなに親戚連中は財産目当てだとか騒いでいた。
そんな女性かどうかはすぐに解る。
だからみずほには、継母を誉めたのだ。




 父はの女性と是が非でも結婚したかったのだ。
それはただ単に、私の面倒をみるのがイヤなだけだだった。


たったそれだけのために恋人との結婚を控えていた女性を力ずくで奪ったのだった。




 それなのに、父は婚姻届けを提出していなかったのだ。
私はその事実を父と親戚とのやり取りで知った。


親戚連中が財産目当てだとか言い出した時、父はまだ提出していないことを打ち明けたのだ。
だから父に振り回された継母が急に可哀想になり、父に提出を促せたのだ。




 私が戸籍に継母の名前が無いと知ったのは、高校に入学する時だった。
結局父は、親戚の言いなりになって婚姻届けを破棄してしまったみたいなのだ。


その時、私は父に殺意を抱いたのだ。




 みずほの彼はイワキ探偵事務所でアルバイトをしていた。
私がその事実を知ったのは、イワキ探偵事務所に依頼した浮気現場押さえの当日だった。


イワキと言う名で勘ぐってはいたけれど、まさか彼処で女装している磐城君を目撃するとは……


磐城君のオジサンは元警察官で、自分の探偵事務所を構えていた。


私はそのイワキ探偵事務所に、担任の素行調査を依頼したのだ。


継母に成り済ますために保険証を無断で借りた。
何時も財布の中に入っていることは調査済みだったからだ。


そしてバッチリメイクを決めて、歳を誤魔化したのだ。


イワキ探偵事務所には恋人の浮気現場押さえだと偽った。


恋人って言ったってエースのことではない。
担任の恋人の振りをしたのだ。


まさか、其処が磐城君のオジサンが経営している事務所だなんて本当に知らずに行ったのだ。




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