Versprechung
側にいて
次に目が覚めたとき、教会は嫌に静かだった。

窓の外のナイフの雨音が止んでいる。砂時計の落ちる音が止まっている。

私は箱庭の様子を伺った。

もうナイフの雨は止んでいた。
あれだけ大量に降り注いでいたのに、地面にはナイフの一本も突き刺さっていない。
一体何処に消えてしまったのか。
疑問を抱えながら、箱庭の奥の方を覗きこむ。
箱庭と外を隔てる黒い柵。
本来はそれが見えるはずだった。
でも今日は、見えなかった。
禍々しくて黒い外の世界。
今となっては直接箱庭と繋がってしまっている。
それがとても恐ろしかった。
おぞましかった。
まるで自分の領域を化け物に狙われているかのように____

気がつけば、私は不安になってアドラーを探して回っていた。


どうして?


動ける範囲は教会だけなのに。

絶対教会の中にいるはずなのに、彼の姿が見当たらない。


アドラー、何処に行ったの?


ふと、礼拝堂の前で立ち止まった。


女神像の両サイドに何かが積もっている。

恐る恐る近づき…私は悲鳴を上げた。
以前に割れ目を塞いだ砂時計から、全ての砂が漏れ出している。
砂時計本体は修復がきかないほど壊れてしまっていた。
『one year』と刻まれている文字は赤く光っている。

「リラ!」

後ろから声がした。
私は震えながら後ろを振り向く。
箱庭に続く扉の前__………
そこでアドラーは私に手を差し出し立っていた。
私は覚束ない足取りで彼に近づく。

ようやくその手を取ると、彼は微笑んだ。

「外の世界に行けるぞ。俺たちは自由になる。ここから出られるんだ。さぁ、行こう。」


彼の右手が扉の中心を押さえる。すると扉はまるでそれを待っていたかのように大きく開いた。

灰色の世界ではない。

そこには光一面の景色。

私たちはそれを目指して.歩きだした。
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