焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
「でも!」


私はここぞとばかりに反論する。


覚えてない……と言うか、確かこの辺という記憶はあった。
けれど、ちゃんと意識していられなかったのは、ここ数年、私と勇希の間で何の『イベント』もなかったせいだ。


それを告げると、今度は勇希の方がそおっと私から目を逸らす。
ほら、やっぱり。
覚えていたならなんで何もして来なかったのか。
私がそんな不満を持っても、間違いじゃない。


「……だから。来年からは、毎年ちゃんとお祝いしよう」


話題を変えるかのように、勇希がちょっと不貞腐れながら、ほうれん草と鮭のキッシュを手に取った。


「あ!!」


それを見て、私は思わず身を乗り出す。
ん?と首を傾げる勇希に、私は頬を膨らませた。


「それ、私も食べたかったの!」

「は?」

「勇希だけ、ズルい!」


本気でむくれる私に、勇希は何度か瞬きした後、なんとも微妙な苦笑を漏らした。


「だったら最初からキープしとけよ」


そう言いながら、自分の取り皿の上で小さく切ったキッシュをフォークで刺して、


「ほら」


私の口元に差し出してくる。
そんな行動に、一瞬本気で目を見開いた。


「えっ!?」

「『え』じゃなくて。あ~んして」


更に口先に突きつけられて、私はただ勇希を見つめる。
< 111 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop