焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
冷静に言ってるつもりなのに、心には焦りが広がっていく。
隣で千川がジョッキを持ち上げるのが見えた。


「なるほど。交際六年でとうとう別れの危機到来か」


からかうような、ちょっと節をつけた口調が俺の癇に障る。


「楽しんでんじゃねえよ。人の不幸を」


ギロッと横目で睨みつけると、千川はジョッキを大きく傾けてビールを飲み干して、背後を通りかかった店員にお代わりをオーダーした。


「だったら俺相手に愚痴ってないで、さっさと迎えに行って土下座して謝って来いよ。って言うか、どうせまた佳代んとこだろ? 俺たちにも支障が出るから、さっさと連れて帰ってくれ」

「……悪い」


智美が今転がり込んでいるのは、千川の彼女の島田さんの部屋だ。
もしかして、この千川の不機嫌も、今夜彼女の部屋に行けなくなった腹いせかもしれない。
そう考えると、俺と智美のいつもと違う不穏な喧嘩で迷惑をかけていることをしみじみと実感して、さすがに申し訳なくなってくる。


短い謝罪を呟いて黙り込む俺に、千川が小さな息を吐いた。


「葛西。本当はお前だってわかってるんだろ? どうしてそこまで智美を怒らせたか。そんな真剣に別れを切り出させることになったのか」


それを聞いて頭の中で少し考えてから、俺は黙ったままで二度頷いて見せた。
< 23 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop