焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
「あの……潮崎さん。私、少し仕事引き受けますから、葛西さんの相談行ってください」


しかも、話を聞いていた後輩がそんな気遣いまで見せてくれる始末だ。


「いや、でも……」


このままじゃ今すぐ連行されそうな勢いだ。
さすがに渋る私の前で、勇希は胡散臭いほど爽やかな笑顔を後輩に向けた。


「ごめんね。助かる」

「い、いえっ! とんでもないです!!」


――なんてズルい男なの……。


基本、イケメンで仕事でも目立つ勇希は、女性社員の憧れの的だ。
メールじゃなくわざわざここまで足を運んで来たのは、人の目のある場所で仕事の話を持ち出せば、絶対に私を連れ出せることを読んでるからだ。


「……で? 潮崎さん。いつがいい? 時間指定してくれれば、場所取ってスケジュール飛ばしとくけど」


私の目線の先で、デスクに置かれた勇希の手がキュッと握り締められるのを見た。
私はこれ見よがしに溜め息をつきながら、午後、と一言呟く。


「二時以降だったら」


勿体ぶって時間を指定したのは、自分の気持ちにワンクッション置きたかったからだ。
ただでさえ、久しぶりのキスを思い出してドキドキしてたところだ。
その上勇希の顔を見て、別れ話の続きとか冷静に出来る気がしない。


「了解。じゃ、後ほど」


勇希はそう言うと指でトンとデスクを叩いてから、私に背を向けた。
そして、女の子の視線を浴びながら、姿勢よく颯爽と出て行った。
< 39 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop