焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
そのすぐ後で勇希から会議招集のメールが飛ばされてきて、私は午後二時に共用会議室に向かった。
数分時間を過ぎてドアをノックすると、どうぞ、と勇希の声に招き入れられた。
中に入ると、スーツの上着を脱いでネクタイを緩めながら、勇希が室内の空調を手動で強めているところだった。


空っ梅雨と言われている今年、七月を目前にして、毎日蒸し暑さが続いている。
クールビズとは言っても、取引先を訪問する営業マンは、それほどスーツを着崩すわけにいかない。
まだ額に汗を滲ませているところを見ると、外出から戻って間もないのだろう。


そんなに急ぐことないのに、と思いながら、私はカムフラージュで持ってきた営業予算資料をテーブルにドサッと置いた。


「外出してたの?」


なんとなく背中にそう訊ねる。


「ん」


第二ボタンまで外して、シャツをパタパタ揺らして風を取り込みながら、勇希が短い返事をした。


「少し涼んで来れる時間にすれば良かったのに」

「ここならエアコン強められるし、むしろ涼むのにちょうどいいだろ。それに……智美に考える時間与えない方がいいだろうと思ってね」


シレッとそう言いながら、勇希はエアコン操作を終えると送風口に向かって両手を広げた。
広い胸いっぱいに、風を浴びようとしている。


やっぱりそういうつもりだったか、と、私はなんとなく顔を背けた。
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