焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
「そ、そんなのズルい!」


そんな理由で別れ話を却下されたら、こっちだって納得出来ない。
テーブルに両手を突いて、床から軽くお尻を浮かせながら、向かい側の勇希の方に身を乗り出した。
けれど、勇希が向ける少し厳しい上目の瞳に鼓動が騒いで、私は口籠った。


「ズルくない。……俺に言わせれば、智美の方がずっとズルいよ」

「え……?」


ルッコラの葉を口の中に放り込んでモグモグと咀嚼した後、勇希はテーブルに置いた缶を手に取って、喉を仰け反らせて煽った。
ハッと息を吐いてから、再び私に視線を戻す。


「六年の付き合いだぞ。そんな中学生みたいな理由で別れようなんて、バカにしてる。……もっと本気で理由挙げてみろよ」

「っ……」


悔しいけれど、言い返せなかった。


バカにしてなんかない。
『もう好きじゃない』は言葉足らずかもしれないけど、私たちが恋人じゃなくなってるのは、明らかなはずなのに。


「ほら、お前も食えよ」


軽く手振りで勧められて、私も惰性で割り箸を割る。
俯いて、彩りのいい春雨のサラダをお皿に取った。


何をどう言ったら、勇希を納得させられるんだろう。
恋じゃなくなってしまった六年の付き合いを終わらせるのに相応しい理由って、いったいなんなんだろう。


ズルいのは勇希の方だ。
私と別れたくないんじゃなくて、別れる理由がないから認めないだけのくせに……。


私の心の靄は、濃くなっていく一方だった。
< 52 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop