焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
『サヨナラ』と言われて、初めて冷静にこれまでの自分を顧みた。
プロジェクトの忙しさから、家の何もかもを智美に甘えた。
いつの間にか、自分で出来ることも智美がやってくれるから任せっきりになった。


母親でも家政婦でもないけれど、『便利な女』にしてしまっていたことは、否定出来ない。


付き合いの長い彼女だから、言わなくてもわかってくれる。
忙しい時期だから、このくらい甘えて当たり前。
勝手にそんな気分になって、いつの間にか……俺は智美の笑顔を見なくなっていた。
それすらも、今になって気付いた。


そばにいるのが当たり前で、お互いが何をしていても気にしなくなった。
それでもいつも一緒にいたのに、彼女がどんな表情をしているか気にも留めなくなっていた。


彼女から笑顔が消えたことにも気付かないほど、俺は智美と向き合っていなかった。
きっと智美の方が先に、俺の気持ちを感じられなくなっていたんだろう。


「そうだよな。……そんな男のメシなんかどうでもいいよな……」


深い溜め息をついてから、ゴロンと床に大の字で横になった。
天井の照明が俺に真っ直ぐ降り注いできて、とても目を開けていられなくなる。


ここ半年で思い出すのは、喧嘩する度に部屋を出て行く智美を、何度も迎えに行った記憶だ。
俺の方も喧嘩する度に嫌な気分になっていた。
けれど、そんな負の状態をループさせて日常にしてしまったのは、やっぱり俺だろう。
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