焦れきゅんプロポーズ～エリート同期との社内同棲事情～
そして、一言。


「……智美。結婚しよう」


それが正解の言葉じゃないと気付いていたのに、俺はそう口にしていた。
自分でもわずかに動揺しながら振り返ると、智美は大きく見開いた目を俺に向けていた。


「智美以外とは、考えられないから」


これ以上は逃がしたくない一心で放った言葉だった。
だけど……。


「最低」


智美のその一言で、やっぱり間違いだったと知る。


「こんなタイミングでそんなこと言われて、頷く女がどこにいるって言うの」


顔を背けて吐き捨てるように呟く智美に、俺は俯いて肩を竦めた。


「……だよな」


俺はそれだけ言って寝室を出た。
ドアを閉めて、背中で押さえるように寄り掛かった。


これ以上に外すことは、この先の人生でもそうそうないと思いたい。


答えはそれじゃない。
智美は多分、そこを望んでいない。
そして俺も、それが純粋な気持ちから出る言葉か自信がなかった。
このタイミングで口にすれば、地雷を踏むだけ。
それはわかっていた。


でも。
わかっていても、今、その言葉しか出て来なかったんだ。


どこまでも俺を拒んで逃げる智美に向ける言葉は、それしか思いつかなかったんだ。
< 69 / 114 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop