焦れきゅんプロポーズ~エリート同期との社内同棲事情~
そして、その後を続ける。


「……今更勇希が何かしてくるとか、思わないし」


そう言いながら、本当は昨夜の勇希が頭の中でチラついていた。


だけど、これ以上なんて言えばいいの。
私のせいで風邪を引いた勇希をこんなとこで寝かしたくないし、それなら私が信じるしかないじゃない。


黙って私を見つめるだけの勇希に焦れて、私は彼の腕をギュッと掴んだ。


「……本当にいいの?」


探るような声で訊ねられて、一瞬躊躇してから、私は大きく首を縦に振った。


「平気。……だって、この二ヵ月、何もなかったんだから」


ボソッと小さく呟いて、私は勇希の腕を引いて立ち上がった。


しんと静まった寝室で、私と勇希のかすかな呼吸の音だけが聞こえる。
いつもより意識的に離れた間隔。
それでも背中に勇希の体温だけは感じる。


昨夜とは別の意味で眠れない。
それは勇希もきっと同じなんだろう。
ベッドに入ったっきり、勇希は一度も私がいる右側に身体を向けない。


それを寂しく感じる私もまた、勇希のいる左側を向くことが出来ない。


とても不自然だ。
そうわかっているのに、背中に勇希がいるとわかっているからホッとする。


――勇希は今何を考えているんだろう。
何を思って、私にあんなことを言ったんだろう。


そんな疑問を抱えたまま、私は明け方にほんの少しだけ微睡んだ。
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