先生、恋ってなんですか?

「私ね。夢は幸せを食べられるレストラン、って言ってきたけれど」
「うん」

さりげなく読んでいた新聞を置いて、優しい声で、私の話を聞いてくれる。
ふたりの日常は、これまでとさほど変わらない。

先生は、相変わらず夜遅くなる私を送ってくれるし。
私はそれをありがたく受け入れる。
ふたりで食卓を囲み、何気ない会話。
増えたことと言えば、たまにおこる喧嘩と抱き合うこと。
そして共に迎える朝。

「自分が作ったものを、食べてもらうことがずっと私の幸せだった」
「うん?」
「それはもちろん、今でも変わらない。美味しいものを食べれば人は幸せになれるってポリシーも変わらない」
「そうだな」
「でもね」

あなたに恋をして、初めて知ったことがある。

「幸之助さんと食べるご飯は、幸せの味がする」

私の顔をまじまじと見ている。
そんなところも好きだ。
惜しげもなく、好きだと思える、そんな自分も好きだ。
そんな風に思えること事態が、驚きなのである。

「先生が、幸せの味を教えてくれたんだよ。ありがとう」

私は“幸せは食べられる”と、両親の姿を見てずっと信じていたし、それを信じて来たけれど。
私自身は、きっと、その本当の味をずっと知らずにいたんだと思う。
けれど先生と恋をして、ようやくそれを知ったのだ。

大切な人と食べれば、幸せの味がする。
大切な人が作ってくれれば、それだけで幸せの味がする。

あのとき、両親が幸せそうに私の料理を食べてくれたのは、他ならぬ私が作った料理だからだ。



今日も食卓には先生の好きな唐揚げが並ぶ。
それはきっと。
他にない、私たちの“幸せの味”なのだ。












先生、恋ってなんですか? 完結




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