僕は君の右手になる

昼ごはんの旋律


僕は次の日も、その次の日も、毎日毎日音楽室へ通った。

彼女と、音楽室でお昼ご飯を食べるようになった。

僕は今日もいつものように、コンビ二で買ったフルーツの入ったサンドイッチと小銭を片手に教室を出る。


10月になり、少し涼しくなったが冷たいココアは僕にとって必需品だ。

甘いココアと甘いフルーツサンド。甘党の僕には最高の組み合わせだ。

持っていた小銭でココアを買い音楽室の扉を開く。

「こんにちは」

彼女はいつも律儀に挨拶してくる。

話してみると、そりゃあもう自由奔放でちゃんと挨拶をするようには見えないのだが。

「こんにちは」

僕も彼女に挨拶を返し、彼女の隣に、壁に背をあずけて座った。

今日は昨日よりも少しだけ肌寒いからか、窓からきらきらと差し込む太陽の光が暖かい。


僕と彼女は毎日ここでたわいの無い会話をしている。

今日の授業で当てられて困っただとか、

昨日の晩ご飯のコロッケが美味しかったとか。

音楽の話は特に出てこなかったけど、

彼女は自分の昼ごはんを食べ終わるといつも左手でピアノを弾いた。


彼女は今日もおにぎりを食べている。

どうやら中身はいつも決まって鮭フレークのようだ。

僕も彼女も、昼ごはんに食べるものは毎日同じものだった。

僕はフルーツサンドにココア、彼女は鮭おにぎりに緑茶、そしてデザートと言って鬼まんじゅうをひとつ食べる。

それが僕らの習慣になった。





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