課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
凍死します
 


 あっ、しまった。
 また打ち間違った。

 真湖(まこ)はパソコンの画面を確認する。

 緊張しているせいだろうか。
 さっきから、何度も打ち間違っていた。

 落ち着けー、と大きく息を吸って吐いていると、冷たい視線を感じた。

 ちょうど真横に五嶋(ごとう)課長の席がある。

 総務の課長や部長の席は全体を見渡せるように置いてあるので、配置的に、雅喜が顔を上げると、真湖が雅喜の視界のど真ん中に入ることになる。

 先週、堀田先輩が寿退社したので、デスクの配置が変わり、此処に来てしまったのだが――。

 怖いよう、と思いながら、真湖はキーボードを叩いていた。

 五嶋雅喜(まさき)課長は、開発部門に居たとき、一発当てたらしく、あの若さで課長なのだが。

 それだけの切れ者にありがちな感じで、他人にもおのれにも容赦ない人なので、出来るだけ近づきたくないと思っていた。

 端正な顔に、あの細い銀縁の眼鏡が知的で素敵だと騒ぐ女子社員も多いが、話しかける勇気のある人間は居ないようだった。

 確かに怖い。
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