課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
「手、離すよ。
 力入れててね」
と言うので、よし、と箱を持つ手に力を入れたとき、羽村がいきなり口づけてきた。

「えっ?」

 ひゃっ、と猫の子のような悲鳴を上げて脚立から落ちそうになったが、羽村が抱きとめてくれる。

「ほら、沢田さん。
 危ないって言ったじゃない」
と羽村は、さも親切そうに言ってきた。

 いや……危ないのは、あんただ。

 羽村の腕に支えられながら、真湖は思った。

 雅喜のものではない香りがすぐ近くにあった。

「よく足許見て下りてね」

 羽村は、真湖の手にあった箱を取ると、何事もなかったかのように言い、下りるのに手を貸してくれる。

 なんだったんだ、今のは。

 ……気のせい?

 そんな莫迦な。

 羽村は壁際の長机でその箱を開けると、
「あっ、すごいよ、沢田さんっ。
 あったよ、ファイル。

 すごい勘だねっ」
と言ってくる。

「ええっ。
 本当ですかっ」
と思わず、側に行き、覗き込んだ。
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