課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
 うーむ……。

「そうだ、課長。
 あのとき、なんで、地下に来たんですか?」

「あのとき?」

「私が羽村さんと備品取りに行ったときですよ」

 雅喜は苦い顔をし、
「たまたま用事があったんだ」
と言う。

「なんの用事ですか?」

「お前の間抜け面を見たら忘れたよっ。
 スーパー行くんじゃないのか、早くしろっ」
と怒られる。

 うう。
 会社じゃなくても偉そうな人だ、と思いながらも、なにか嫌ではなかった。

 その一言が照れ隠しのように感じられたからだ。

 羽村が言うように心配してきてくれたのだろうか、とちらと見たが、

「さっさと歩け」
と後ろから、風呂掃除の長いブラシで突いてくる。

 此処は刑務所か。

 最近気づいたが、この人、掃除道具マニアだ。

 今もドラッグストアで、水だけで驚くほど汚れがよく落ちる、という説明書きを熟読している、と思っていたら、買っていた。

 家にはこういうグッズがいろいろあって、整然と並んでいる。

 その情熱の十分の一でも、料理に向けてくれないだろうか、とか言ったら、今度はあのブラシで殴られることだろう。
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