課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
「沢田。
さーわーだ」
二度呼ばれて、はい? と顔を上げる。
騒がしい音楽の流れるドラッグストアで真湖はシャンプーを前にしゃがんでいた。
「決まったのか?」
と横に立つ雅喜に言われる。
「ああ、はい。
これで」
と悩んだわりには、目の前にあったボトルを適当につかむ。
「まあ、悩んで買ったところで大差ないだろ」
と素っ気なく雅喜は言った。
うーむ。
これは、シャンプーに大差がないという意味か。
なにを使っても私に大差がないという意味か、と思いながら、レジへと向かう。
羽村にされたことをまだ雅喜に言えないでいた。
いや、言う必要もないのだが。
何故か、黙っていることを心苦しく感じる。
別に雅喜と付き合っているわけではないので、報告する必要もないはずなのだが。
報告ね。
なんてするんだろ?
『私、課長以外の人に、初めてキスされました』
阿呆か、そんな報告はいちいちいらん、と切り捨てられるだろうか。