課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜




 今日は朝から忙しく、三上の謎の電話のことなど忘れ、社内を駆け回っていた。

 総務は業務上、ビルの中を行ったり来たりすることが多いので、あまり太らなくて済む。

 体調の悪いときには、ちょっときついが。

 エレベーターがすぐには来そうになかったので、一階上に行くくらいいいか、と思い、階段を上がろうとしたら、羽村が上から下りてきた。

 げ。

 と思ったが、極力、昨日のことはなかったことにしたいので、笑顔で挨拶する。

「おはようございますー」

「おはよう」
と羽村もいつものように爽やかに返してくる。

 よかった。
 やっぱり、あれは、なにかの間違いか、ちょっとした事故だったんだ。

 羽村さんもよろけて、ぶつかっただけかもしれないし。

 自分でも、そんな莫迦なと思いながらも、それでおのれを納得させようとする。

 いやあ、よかったよかっ……。

 すれ違いざま、羽村に腕をつかまれた。

「沢田さん、課長には言った?」
と羽村が笑顔で訊いてくる。

「な、なにをですか?」

 僕とキスしたことをだよ、と羽村は言った。
< 294 / 444 >

この作品をシェア

pagetop