課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
 そのまま、雅喜は、もうこちらを見なかった。

 真湖は叩かれた頭に手をやり、ちょっと照れたような顔で、席に戻ろうと後ろを向くと、みんな仕事の手を止め、こちらを見ていた。

 慌てて、みんな仕事に戻る。

 ……なるほど。
 同じ職場は駄目かもな、こういう意味でも、とは思った。

 椅子に座りながら、でも、職場の課長は家で見るより格好いいんだよなー。

 ずっとこの姿が見られなくなるくらいなら、つきあわなくても、結婚しなくてもいいかも、と妄想が暴走していたら、スマホが鳴り出した。

 しまった。
 音切ってなかった。

 真湖の場合、仕事でスマホが鳴ることはない。

 ちょっと間抜けなドラマのテーマソングが職場に響く。

「すっ、すみませんっ」
と切ろうとした。

 雅喜も今度はほんとに睨んでいる。

 このたわけめ者めが、という顔で。

 あわわわ、と引き出しから取ったとき、表示を見て、おや? と思った。

 親の携帯からだったからだ。

 この時間に仕事してるのは知ってるはずなのに。

「失礼しますっ」
と言い、スマホを持って、廊下に出る。
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