偽りの御曹司とマイペースな恋を

指定されたコンビニで待つこと10分。

瓜生の車が歩の側にとまって、あんなに怒っていた癖に
彼の顔を見るなり嬉しそうに早々と乗り込む。
電話で何を言われたのか分からないが瑞季も一緒に。

「何だお前」
「な、なんだ!?なにそれ。酷いなあ」

乗り込んだら酷い言われようと拗ねた顔をするが車はコンビニを出る。

「良かった。歩、なんだか怒ってるみたいだったから」
「怒ってるよ」
「何でだ?」
「わ、分かってないの!?」
「何か傷つけるようなことをしたのなら謝る」

どうやら歩が送った「バカイツロ」のメールを気にしている様子。
でも何でこんな事を書かれたのかは分かってない。
助手席に座る歩はポカンとして、うしろの瑞季は笑うのをこらえている。

「一路君は女心がわかってないからなあ」
「確かに分からない。俺は女じゃないから」
「だめだねえ」
「ダメダメだねイツロ君…」

分かってたけど、言わざるをえない。

「……すまない」

瓜生は申し訳無さそうにつぶやいた。

「イツロ君。私だって社員なんだから、みんなといっしょに会社のために働きたい」
「どうした急に。給料分の仕事をするのは当たり前だ」
「だったら私も会議とか参加して、その、すぐに企画を出すのは無理でもちょとずつ」
「何も遅くまで残っている必要はない。言いたいことがあるなら部屋で聞く」
「でも」

そうじゃなくって。ほら、会社と家は違うじゃない。
家でまで仕事の話を延々とするのも味気ないじゃない。
瓜生は忙しくなってくると自室に閉じこもって仕事しているけれど。
何とか説明しようとするも相手にはあまり響いていない様子。

「歩、今はまだ無理だと思うよ。ほら彼、頭硬いところあるし。時間をかけてかないとね」

瑞季がフォローする。

「……うん」
「……」
「それよりさ。夕飯、どうするの?俺期待してるんですけど一路君」
「お前は途中で降りて帰れ。美味しい飯はいくらでも食べられるだろ」
「酷いな!従兄弟にそんなひどい仕打ちないよ」
「そうか。でも残念、俺はお前たちとは他人だ」
「身もふたもないこと言うよなあ。もう10年以上身内なのに」
「イツロ君。3人でご飯食べよう?日本帰ってきて久しぶりだし」
「……お前が言うなら」

それが何となく面白く無さそうな瓜生。
だが、言葉にはしない。
ちょっと顔が不満そうになるだけ。

「やった。何かなイツロ君の手作りは」
「そこの店に入るぞ」
「え」
「お薦めのお店なの?」
「いや。適当」
「一路くーーーーん!?部屋入れてくれない気だな!?」

道沿いにあった中華飯店に入り3人で夕飯。2人でも楽しいけれど、
もうひとり居てくれるとまた違って騒がしい。瑞季は養子である瓜生にも
敵意を向ける事なく普通に身内として接して同い年、高校も一緒。

本当は仲も悪くない事は歩もよく知っている。
だからこれからも仲良くしていって欲しい。

「イツロ君。瑞季君泊めてあげなくてよかったの?私は別に」
「一度泊めると何度も来る」
「私いいよ?話してるの楽しいし」
「……」
「あ。すねた」

でもちょっと、難しいかな。


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