偽りの御曹司とマイペースな恋を


依然拗ねている歩。

「分かった。話したくないなら聞かない」

瓜生はそういうと買って来たものの整理と夕飯の準備に取り掛かる。

「イツロ君はすぐ諦めちゃう」

そもそもちゃんと話をしようともしない。
またむすっとする歩。淡々と作業を進める瓜生。
しばらくは作業音だけの無言の時間が続いた。



「今寝ると眠れないってまた夜更かしするぞ」
「…イツロ君冷たいからいい」

お菓子も食べ終わって暇になった歩。
クッションを抱きしめてうとうと。
そのまま横になったら瓜生が来て抱き起された。

「夕飯はお前の好きなハンバーグにするから機嫌直そう」
「……」
「俺、考えるの苦手なんだ。お前の気持ちとか、さ」
「…分かってる。私も苦手」
「歩」

歩はまだ眠そうな顔をしてそのままクタっと体を瓜生に任せ彼の膝に座る。
彼の手が歩の頭を優しく撫でた。

「……仕方ないけどさ。料理しかしないっていうんだもん」
「ん?」
「暇がったら料理の研究したいって言ったでしょ」
「ああ」
「…歩に構う時間は」

もちろん彼が自分を構う気がないとは思ってない。
けど、やはり言葉にしてほしい。瓜生は中々言葉にしないから。
日常のふとしたセリフですらもないから。

歩はじれったい。

よく外で見るようなカップルのべたべたしたのは苦手。
でも、ドライすぎるのもやはり寂しい女心。
母親にさりげなく相談したら笑いながら「ワガママさんね」と優しく言われた。

「え?いや、…そんなの、言わなくても当たり前だろ?」
「わかんないよイツロ君だもん」

いつか、料理研究に熱中しすぎてそっちの方がいいってなるかも?

歩はぼそぼそっと内心恐れていることをぼやいてみた。
それで彼の様子をうかがう。どうでるだろう?

「ああ」

瓜生は大きくうなづいた。

「え!」

歩は驚いて声を上げる。

「嘘だ。幾ら俺が馬鹿でもそれは無い」
「意地悪した」
「傷つけたら謝る」
「ハンバーグおっきいの焼いてね」
「焼くから付け合わせの野菜もちゃんと食べるんだぞ」
「…ぐ…ぐーぐー…」
「せめて目を閉じて言え」

呆れた顔をする瓜生だがすぐに笑って歩のおでこにキスをした。

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