偽りの御曹司とマイペースな恋を


「とにかく。イツロ君は夢に向かって走ればいいの」
「お前もな」
「うん」

今はもう自分の意志で行動を選択できる歳になった。
誰に何と言われても。
たとえ今までずっと守ってくれていた親であっても。

父が言うように歩にはまだ恋愛とか男女の事とかよく分かってない。
もしかしたらあの頃の懐かしい思い出の勢いもあったかもしれない。
けど、家を出てここに居るのは自分の強い意志。

初めてきちんと自分の気持ちを理解した。

私は彼が好きだって。

離れたくないって。

「歩?」
「これからも一緒に住んでいいよね?」

父と瓜生の会話ではその辺は曖昧にされたけれど。

歩は確かめたい。

「ああ。住もう。俺も……離したくない」
「よかった。ダメって言われたらどうしようって思った」
「名栖さんは俺が居たほうが健康的な日々を送れるし、遅刻もないしな」
「美味しいお弁当もありますしね!って酷い!」
「ははは」

ずっと緊張した顔をしていた瓜生がやっと笑ってくれて歩も微笑む。
両親、とくに父親の考えが少しは変わってくれてよかった。
やっと車から降りてマンションにはいる。
実家もいいけれど、やっぱりもう歩にとっては家はこっちだ。


「イツロ君。一緒にお風呂入ろう」
「どうしたいきなり?」
「だってほら。気分いいからこの勢いで」
「不必要な接近は禁止。歩に触れることも本当は禁止なんだぞ」
「そんなの別に」
「よくない。風呂は一人で入れ。成人しているんだから入れるよな。頑張れ」
「意地悪!」

何が成人だ。若干歩を子ども扱いしている癖に。
不満な顔をする歩だが瓜生はさっさと鍵付きの自室へ。
こういう時は仕事かあるいはレシピでもまとめているか。
すぐには出てこないので結局一人で風呂にはいる。



「何だ?」
「風呂あがりの成人女性がじーっと見つめてるんだよ?何か思いません?」
「…ああ」
「わかった?」
「肌の手入れしたか?きちんと保湿しとかないとだめだぞ」
「……」





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