偽りの御曹司とマイペースな恋を
過保護も程々に



「この粉を入れるタイミングはやっぱり経験…ですか?」
「そうね。昔は本を読んだりしてその通りに時間を計ってやったりしてたけど。
今じゃそれも面倒になっちゃって。自分の感覚でやってる事の方がおおいかしら」
「なるほど」
「そんな真剣な顔しないでも一路君もずっと作ってるんだもの感覚は分かってきてるはず」
「まだ自信がなくて本に頼りがちになります」
「今は沢山の知識を吸収していけばいいわ」
「はい」

日曜日の朝から母の嬉しそうな声と真剣な瓜生の声がリビングに響いてくる。
時折母の笑い声なんか聞こえてきてよほど楽しいのだろう。お互いに。

瓜生に前から母の料理を教えて欲しいと前から言われていて
母に聞いたら快諾してくれて今日に至るのだが。

「なんだよなんで母さんまであんな嬉しそうな声だしちゃってさ」
「そうだよ。イツロ君もあんな嬉しそうな顔」
「ま、まさか母さんにまで…いやいやそんな子じゃない。違うぞ」
「当たり前だよ。…でも私にはあんな嬉しそうな顔しない…」

面白くない人が2人。

隅っこで様子を伺っている父と歩。最初手伝うと言ったがそう広くない台所に
4人は多いと追い出されてしまった。趣味が合う2人だからって別にどうなる訳でもないのに。
分かっていても気になる。見てしまう聞き耳を立てて。

「貴方はもっと自信を持っていいのよ。すごく丁寧に上手に作ってるわ」
「そう…ですか?最近はあまり時間がなくて、上手く出来ない事が多くて」
「駄目だって自分で思い込んでるだけ。そうね、慎重なのは悪い事じゃないけど…。
たまには思い切って冒険しなきゃ。貴方はまだまだ若いんだから」
「はい」
「ということで。ここからの味付けは本を見ないで一路君の思うようにしてみて。
そうね、歩ちゃんに食べさせてあげるものだから。あの子の事を考えながら」
「歩のことを」
「そうよ。食べて貰う人の事を考えながら作るのも楽しいでしょ?私はお父さんに作るから」

唐突に出された課題。ずっと本を見ながら時折歩の母に指示を仰いでいたから。
まさか自分の考えでやることになるなんて。一瞬頭が真っ白になる瓜生だが、
素直に考えこんでいる表情を見せて、動き出す。どうやらイメージが湧いたらしい。



「あの、…今日はありがとうございます。教えて欲しいなんて迷惑じゃ」
「歩ちゃんも来てくれたし。一路君ともっとちゃんとお話がしたかったから丁度よかったの」
「そう、ですか」

後は焼くだけの段階になって瓜生は歩の母に軽く頭を下げる。
彼女はいいのよと笑って。休憩にしようとお茶を出してくれた。


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