偽りの御曹司とマイペースな恋を


「……な、なあ。話の趣旨が変わってないか?俺は別に今なにをするということもなくて」
「じゃあタオルとっちゃう」
「だめ!」
「じゃあイツロ君」
「……お、俺。俺には。俺には出来ない!」

エプロンをつけて手には菜箸を持った瓜生が歩の前で崩れ落ちる。

「……」

歩は酷く悲しい顔をする。

せっかく彼が気持ちを吐露してくれて、同じになりたいと思ってくれて。

上手くいくかなってちょっとは期待したけれど。やはり、むりか。
彼のトラウマを取り除くにはもっと時間が必要で。でも。待てるだろうか。
いっそどこか別の所で汚くなってきたらいいの?とは口にはしなかった。

「…お前の事、大事に愛しすぎてるのかもしれない」
「そうかも。大事にしすぎても息苦しくない?」
「少し、な」

不満そうな顔をする歩だがその膝に瓜生がギュッと抱き付いてきて
それには優しく貴方を撫でてあげている。

「あ」

ふと瓜生の体が離れ立ち上がるのかと思った。けど違う。
顔が近づいてきて歩の唇、ではなく開かれた首筋にキス。

「…いい匂い」
「体…洗ったもん」
「……歩の匂いだ」

それから鎖骨。肩。手のひら。そして頬、最後に唇。

「……はう」

それだけですっかり体が火照り熱くなった歩。

「…可愛い」
「イツロ君」
「……歩。…お、…俺」
「うん。…大丈夫、……だよ」

このまま抱きしめ合ってキスをして、もっと貴方に近づきたい。


「………あ。しまったから揚げが!」

とろんとした目で見つめあいもう一度キスを、と思ったら。
匂いで察知した瓜生が慌てて台所へ。
火は消したが余熱でこんがり黒く上がったからあげ。

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