一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~
「そっか。それは大変だね、天野」
久しぶりに菱沼さんと飲むことになった私は、不満をぶちまけると、ハイボールのグラスをいっきに空けた。
「なんかもう、思い切って退職しようかなって思うくらいです」
「寿退職?」
「まさか」
あの未遂の夜から游さんとはすれ違いの生活になってしまった。仕事が忙しいらしい。でも、仕事は建前でもしかしたら避けられているのかも知れない。
そのあたりはきちんと確認しようと思ってはいるが、どう切り出していいのか分からないでいた。
「でも、好きな人はいるんですけどね」
「あら、そうなんだ。どんな人?」
菱沼さんは目を見開いて私を見た。興味津々と言った感じだ。隆のことがあってから恋愛ネタなんて久しぶりだったので余計だろう。
「いい人です。フリーターで、毎日遅くまで仕事してます」
「フリーターかあ。将来的に不安じゃない?」
「ええ、でも私はそれでもいいっていうか、なんていうか。一緒にいて楽なんですよね。背伸びしなくていいんで。きっと身の丈にあているんだと思います」
「そっか。天野がそれでいいならいいんじゃない。男が稼がないといけない世の中でもないし。一緒にいて楽な相手が一番よ」
「ですよね。私もそう思います。玉の輿に憧れてたんですけど、だからって幸せになれるとも限らないし。共働きなら生活に困ることはないですしね」
まるで游さんとの結婚を考えているような自分の言動に少し驚いたが、それもありかもしれないと思った。