一途な外科医と溺愛懐妊~甘い夜に愛の証を刻まれました~

《もしもし、由衣子?》

 隆の声が私の名前を呼んだ。游さんに聞こえてしまわないようにスマホを耳に押し当てる。

「……はい。なに?」

《なにって、さっき電車で俺のこと無視したろ》

「別に無視したわけじゃないけど。用件それだけなら切るよ」

 私は少しでも早く電話を切りたかった。游さんの目の前で元カレである隆と電話なんてしていたくない。

《待てよ! なあ、お前今どこに住んでんの?》

「どこだっていいでしょ」

 苛立つ私に隆はとんでもないことを言ってきた。

《今度、会わない?》

「なんで?」

《なんでって、会いたいから》

「ふざけないで! 浮気してふっておいて、いまさら会いたいだなんて言わないで!」

 思わずそう口に出してしまった。ハッとして游さんを見る。游さんは私をみつめていた。そして私の空いている方の手を握って、そっと唇を近づける。

「……あ」

《あ? お前今、なにしてんの》

「なにって、なにも」

 游さんは戸惑う私を見ながら指先を軽く噛む。とっさに手を引っ込めると、游さんに背中を向けた。すると游さんは私を後ろから抱きしめて耳元で囁く。

「話し、続けていよ」

 続けていいいだなんて言いながら、游さんは私の邪魔をする。上着の裾から手を指し入れてブラジャーのホックを外した。

「やっ、だめ」

《おい、由衣子!》

「ごめん、隆」

 私はたまらずに電話を切った。それと同時に游さんは私から離れて、丁度沸いたお湯をティーポットへ注ぐ。

「遊さん、なんでこんなこと……」

私はブラのホックを留めながら、游さんに詰め寄る。でも、游さんは素知らぬ顔で私の言葉を遮った。

「僕紅茶ってあんまり飲まないけど、いい香りだね」

「游さん」

「ほら、座って。食べるんでしょ? シュークリーム」

「……食べます」

上手くごまかされてしまったようだけど、妬いてくれたってことでいいんだよね?

私は游さんの入れてくれた紅茶を飲みながら、甘いシュークリームを頬張った。

< 95 / 192 >

この作品をシェア

pagetop