film

「ご飯食べていい?茉美も何か食べる?」
「お昼遅かったから、お茶だけでいい」


本木は店員に声をかけ
ドリンクとパスタとデザートまで注文をした。


「最近は、何かつくってるの?」
体の向きをこちらに直してタバコに火をつける。


「全然。予備校のことだけになっちゃってます」

「はは、作品創らないと、悪いもの溜まってっちゃうよ。特に茉美みたいな子は」

「本木さんは、相変わらず忙しそうですね」

私のハーブティーと、本木のカフェラテが運ばれてきた。

「まあね。忙しくしてるのが仕事みたいなものだから」
そう言って笑う本木の顔から"繊細さ"という言葉は
全く想像できないのだけど、
彼の作る作品は非常に繊細なことで有名だった。
私が数年前に創った作品が
美術家、そして評論家である本木の目に留まったのが出会いだった。

「彼氏とはうまくやってる?」

「彼氏じゃないです」

「あ、そっか、そうだった。セフレだった。ごめんごめん。
初めて会ったときにさ、彼氏いるの?って聞いたじゃん?
そしたら茉美が少し迷いながら"彼氏みたいな人がいる"って言ってて。
吉岡覚えてる?吉岡が"なんかエロい"って
超気に入ってたんだよ」

「はぁ」

「いやぁ、やっぱ茉美はいいね。うん。おもしろい」





帰りは本木の車で家の近くまで送ってもらった。
走り去る車を見送って、ヒールを脱ぐ。
薄暗い人気のない道で小さく踊りながら帰った。

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