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新は自分の授業が終わったにもかかわらず、
まだ予備校に残って
そして、担当でない私の傍に座っている。

私は来週生徒に出す課題の支度ををするために
準備室にこもって作業をしていた。

「せんせーってば」

「はい」

「次、国立美術館でやる展示、良さそうだよ。見に行かない?」

「んー?どれ?」
私は新の読んでいる雑誌を覗き込む。
「せんせ、いい匂い」
新は私の髪を少し手にとって自分の鼻に近づけた。
「そう?ジョンマスターのシャンプーだよ」

「……ぷっ」
新はお腹を抱えて笑い転げている。

「先生、そういう時はさぁ、何してんのよって顔赤らめないと…ひー、面白いなぁー」
長い睫毛に涙までつけて。

「……もうね、30も近くなるとそんなことにいちいちドキドキしたりしないよ」

私は新に背を向けて、再び作業を続けた。

道具のたくさん入った箱を棚の上の方にあげようと持ち上げると、箱が浮く。
後ろから新が持ち上げてくれたのだ。

そしてそのまま私を抱きしめた。

「これでもドキドキしない?」
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