film
前を歩いていた新の足が止まり、体を返してこちらに向かってくる。
「レモネード」
自分で言い出したにも関わらず、
私は慌ててお財布を出してレモネードを買った。
拗ねた顔をしながらレモネードを受け取る新が
可愛くて
思わず笑ってしまった。
「なに?」
「ううん、かわいいなぁと思って」
「子供扱いしないでよ。」
私はまた、なにも言えなくなって黙ってしまう。
「先生」
私を抱きしめる腕。
「先生」
口に触れる新の柔らかい唇。
長い睫毛。
線の細い顔立ち。
「瀬名くん、かわいいね」
私の肩に顔を埋める新。
「ずるいよ。ちゃんと見てよ。
そうやって逃げないでさぁ」
「…うん、ごめん…でも、かわいい」
私はまだ、勇気が持てない。
まるで冬が来ることを拒む、最後の葉っぱの一枚のように、
木の幹にいつまでもしがみ付いている。