姉弟ごっこ
私は足音が響かないように注意しながら、後退りしてその場を離れた。

バックヤードで話していた後輩たちは会話から察するに、集客が見込めるフェアの前に売れ行きがいい人気商品の欠けたサイズを在庫の中から調べているらしかった。
そして、パソコンで在庫のある他店舗を調べ、取り寄せる。

本来、お客様から注文がないとそういうことはしちゃいけないという暗黙のルールがあるんだけど、最近新しく赴任した店長は、他店舗から人気商品を横取りしてでも売り上げ至上主義で、何百通ものDMを手書きで書かされるくらいフェアの集客にもかなり力が入っている。
後輩スタッフたちは、そんな新しい店長のやり方に不満を募らせているみたい。

『そうそう、てっきりサブ店長の白濱さんがそのまま店長になると思ったのに』

だからってそんなこと言われても、私にはどうしようもないんだけどさ。
上が決めたことだしね。

何事もなかったかのように、十分くらいして「おはようございます」ショップに戻ったときには、後輩たちは店内の掃除を始めていた。

「白濱さん、おはようございます！パソコンの入荷予定見ましたけど、今日もごっそり新作が入ってくるみたいですよ」
「そうなんだ。フェア前だもんね」

私はパソコンで出勤時間を打刻した後、入荷予定を開いてみた。
淡い色味のニットや、とろみのある素材のトレンチコートが載っていた。

「わぁ、可愛い」

入荷したら早速社割で買っちゃおうかなぁ。今日のシフォンスカートにも合いそう。
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