姉弟ごっこ
と、ついつい前のめりになってパソコン画面に食い付いた私の頭に、不意に声が甦る。

『そんなにめかしこんじゃって』

あの、嫌味ったらしい声が。

確かに三回目のデートって、なんだか節目的な感じがするし。だから私だって、彼との距離が縮まるんじゃないかって。そろそろなんじゃないかとまったく考えてないと言ったら嘘になる。

だけど……。

『相手もさぞかしあそこおっきくして待ってんだろうねぇ』

振り払うように、私は頭をぶんぶんと左右に振った。

「白濱さん、どうかしましたか?」

付近をモップがけ中の後輩が、そんな私を不審そうな目で見た。

「な、なんでもないの!」

今は哲史のことなんかより、仕事に集中しなきゃ!

夕方、本日はお休みであるはずの店長から電話があった。
売上の確認かと思いきや、フェアの集客のために大口の顧客には直接電話をするように、という内容だった。

「また残業かぁ」

閉店後に後輩スタッフたちは、一様に顔をしかめた。
私は時計を確認する。久島さんとの待ち合わせの時間は、刻一刻と近づいている。
何件掛けられるか分からないけど、一応遅れるかもしれないってメールした方がいいかしら。

「あの、白濱さん」

そわそわしすぎてスマホと固定電話の両方を耳にあてたりしている私がよっぽど異様だったのか、後輩が心配したような表情で、私の顔を覗き込んだ。

「もしかして今夜、デートですか?」
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