姉弟ごっこ
急ぎ足で自室に入る。
背中には、「あたりめ食っていい~?」という呑気な哲史の声が聞こえたが、私は無視してドアを閉めた。
もうあたりめなんてどうでもいいから!

「ーーあ、もしもし、お母さん!?」

通話になった直後、食い気味に叫んだ私に、お母さんは≪あら、まひる?≫平和そうな声で言った。

≪さっちゃん着いた?≫
「着いたわよ!っていうか私、同居するのオッケーした覚えないんだけど」
≪えぇー?あなたこないだ電話したときは、うんうん、そう、って言ってたじゃない≫
「それはただの相槌っていうか、疲れてたから寝言みたいなもんで」
≪なに可笑しなこと言ってるの?まあ、部屋を借りたいのは一週間だけなんだって。さっちゃんのお母さんもね、厄介になって申し訳ないけど、まひるが居てくれて心強いって仰ってたわよ。田舎のよしみでしっかり面倒みてやんなさい≫
「え、ちょっと待って!私の都合は?」
≪じゃあお母さん忙しいから、よろしくね≫
「ちょ、ちょっと!」

ツーツーツー……
電話は切れた。スマホを持った右手から力が抜け、ぷらんと肩からぶら下がる。

こんなことになるなんて。
私は溜め息を吐きながら、リビングに戻った。
床に横になる体勢で哲史は、勝手にテレビドラマを巻き戻して最初から見ている。あたりめをかじりながら。

「……」

寛ぎすぎでしょう!
もう一度、図らずも溜め息が出た。
< 3 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop