姉弟ごっこ
リビング中が香ばしい匂いに包まれたとき、湯気が立つコーヒーカップをふたつ持った哲史がベンチに座り、「ここに座って」空いた隣のスペースを顎で指した。

少し逡巡している私に、「ほら、冷めちゃうよ」コーヒーを一口啜った哲史が上目遣いでこちらを見る。私はカップを受け取ると、ぎこちない動作でベンチに腰を下ろした。

「深入りする前で良かったじゃん」

コーヒーを手渡しながら、哲史は口を窄めて言った。
全然良くないわ、と心の中で悪態づきながらカップに唇を寄せる。「熱っち!」ブラックコーヒーは想定外の熱さだった。

「それにお陰で、奪う手間が省けたし」

カップをテーブルに置いた哲史が、そう言って私を見た。

奪うって……?

理解出来ずに目を真ん丸にする私を、しばらく相手は訝しげに直視していた。
と、思ったら。

突然の、デコピン直撃。

「痛!な、なにすんのよ!」
「ったく、あんな男に気安く口説かれやがって」

高確率で真っ赤になっているはずの額を擦りながら、「はぁ?」私は涙声を振り絞る。

「なんなのよいきなり!爪刺さったじゃん!」
「デコピンくらいで騒ぐなよ。他の男に捕られるぐらいならなんだってするよ俺は」
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