最果てでもお約束。
ゆうの肩が小刻みに揺れる。まだ夏はもうちょっと遠い。寒いのかもしれない。
”お父さん!!どこっ!!”
山奥での思い出が急に甦ってきた。そう、あの時は夏だった。なのにぼくの肩は、手は、小刻みに揺れてなかったか?
・・・・・・・・恐怖によって。
「ゆう、わかった。もう無理には乗せない」
「・・・・・・ん」
「でもな、歩いて帰る方が危ないかも。野良犬が来たらどうする?」
「・・・・・・」
「酔っ払いのあぶないおじさんが寄ってきたらどうする?」
「・・・・・・・・・」
どんどんゆうはうつむいていく。
そうだ、ぼくもあの夜の山奥で同じような事を考えて、同じように恐れていた。
リアルな死の感覚に乏しいはずの子供であるのにもかかわらず、ぼんやりとだが確実に鮮血や、いわゆる死というものがすぐ傍まで来ているのを想像して、ただ恐れていた。
求めていた。光を。暖かい何かを。
当時のぼくは結局ソレは得られなかった。自力で山の麓まで降りたのだ。
しかし、ゆうには無理かもしれない。
でも、ここには誰がいる?
ぼくがいるじゃないか。
ふるふると震えるゆうの手を両手で掴む。
「!」
それだけでゆうは肩までびくんと震えた。目尻には涙まで少し溜めている。あぁ…なんてか弱く、かわいらしい。
「ゆう、大丈夫。ぼくが守ってやる」
ぼくはどんな顔をしているだろうか?唇が震えているような気がする。膝が崩れそうだ。でも、ただ心だけ熱い。
「……ずっと?」
ゆうはまだ下を向いている。
「ずっとだ。任せろ。ぼくの後ろは、鉄砲の玉だって飛んで来ない」
「………ずーっと?」手はもうモジモジしていない。
「うん。ずーっとだ。ゆうは、ぼくが、守ってやる」
「ん!」
ぱっと上げたゆうの左目からは一雫、右目には砕け散る涙。
街灯の無い逢魔ケ時。黒い山だけがぼく等の契約にも似た儀式を見ていた。

後年酒に酔ったゆうは語る。
「目はヤバイし唇は震えているし。断ったら殺されると思った」
ぶち壊しかよ…
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