最果てでもお約束。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよう~」
三者三様の挨拶。
彼は左手に文庫サイズの本を持っており、時折それに目を落とす。
「相変わらず”細雪”ですか?」
「うん、これは覚えようと思って」
初めて会ったときからずっと読んでいる気がする。いつになったら・・・とは言っても文庫本をまるまま一冊の記憶はちょっと真似出来ない。
「この間チェロという楽器の・・・なんだったかな・・・そう、調弦とやらを聞いたんだ」
右手には黒鞘に収められた日本刀。左手には文庫。上下はぼろぼろのジージャンに黒のワイドパンツ。見る人が見れば、おかしくなっている人だろう。
「あれは良い。その後に聞いた演奏よりもずっと」
「音楽にはその人の技量が、調弦の音色には楽器を作った人の魂が現れているんでしょう」
びっくりした。アキラがそんな事言うもんだから。
それはキャラ的にはぼくの発言じゃないかいシット!(嫉妬)
「・・・こうと一緒にいるからあいつかと思ったが、よく見ると違うな」
ちなみにド近眼な彼です。
「ええ、こいつはアキラ。ぼくの」
従兄弟で滋賀からまではもう喉まで来てたんだけれどな。
「待て、何者かは俺が決める」
ぴしゃり、と音がしたかと思った。
(メール来てないのかな?)
本に集中している彼を横目に、アキラが耳打ちしてくる。あーあ、これで余所者確定だぞバカ。
「携帯は好かん。俺は俺の足で、魂で見つけて判断する」
目は本に向かったまま。
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